さる土曜日、アウトドア導師である友人Tに誘われ、キャンプをする事になった。
もう記憶もかなり曖昧なのだけど、まだ幼い頃に父親に連れられアメリカ人の誰かとキャンプをした時以来のキャンプ体験に、俺の胸は大きく高鳴ったのだった。
スーパーで酒を大量に買い込み、妻と二人で現地に走り、到着。
海の見える丘の草原は、夕暮れの優しい雰囲気をたたえて私達を迎え入れてくれた。

景色は抜群
ん?でもちょっとまって?え…?えー?…結構他人多いな!!

ちょっと手前
なんというかキャンプというと、こんなのを想像していた自分にとっては、少々の戸惑いを感じたのは事実だ。

こんなの。
大体100平方メートル弱くらいのスペースに5〜6棟くらいのテントが既に立っていた。
キャンプサイト自体はもっと広かったけれど、そこに人々が集まっているのは恐らく、近くにトイレがあったからだろう。
そう、このキャンプサイトにはトイレや、洗い場などの施設も完備されていたのだった。
なるほど、確かに女子にとってトイレは必須だ。この場所に人々が集まるのも頷けるというものだ。
テントを建てる
導師Tは慣れた手付きでどんどんテントを建設していくのだった。
俺は最近のアウトドアブランドの作るテントの、その簡便性や機能性に大いに驚いた。
「いやあ、これなら建てるのに迷わないねえ」などと何かが分かっているような口を聞いてみたが、内心は「一人じゃ絶対に建てられる気がしないでござる」と、テキパキとテントを建てる導師Tの男子力の高さに嫉妬の眼差しを注いでいた。
日もだいぶ沈んだころに、3つのテントが立ち上がり、なんとその内の2つは合体して大型テントに進化した。すごい、ロボみたいだ。

2つのテントが

合体
残りの一つのテントは導師Tがわざわざ俺たち夫婦のためにこしらえてくれたのだった。ありがたや。
まるでチンパンジーのように
アウトドア導師Tのこだわりはすごい。
俺だったらそういう布はダラリと垂れ下げたままにしておくだろう。という窓の覆いの部分の布類もきっちりと丸めて畳み、これまたテント内の驚くべきところに備え付けられているバックルにしっかりと固定していく。
彼の用意してくれたテントは6人の大人が余裕で過ごせるサイズのものだったので窓の数もめちゃくちゃ多かったが、一つ一つをしっかりと、畳み、固定していく。上質な時間を過ごす為に労力をいとわない大人の男の姿がそこにあった。
一方この頃の俺はといえば、頭の中は既に今夜の酒の事で一杯であり、布の畳み方が内巻きか外巻きかなんていう事もまともには考えられず、愚かめのチンパンジーさながらの様子で布を畳んだり延ばしたりと無意味な動作を繰り返していた。
そんな俺を横目に妻はすっかり畳み方をマスターしていたので、少し悔しさを覚えたが、その気持をバネになんとか自分の担当の布を畳むことが出来た事も書き添えておく。

ガチ勢の装備品
始まった宴、開始五分で…
そしていよいよ宴が始まったのであった。
肉屋で働く、無口だが気のいい友人KZは今日の為にとっておきの肉を持ってきたといい、手始めにチキンを焼きはじめてくれた。
最近結婚したKSはアメリカ人の友人Sと一緒にキャンプ場にやってきていた。そのSはというと、日本の気候に詳しくなかったのか、はたまた油断していたのか、Tシャツ一枚でこのキャンプ行に挑んできていた。
その事についてアメリカ人(白人)という人種は平均体温が高いから日本人ほど寒さに敏感ではないのだという話題になったが、昔アラスカからやってきたという男が、雪のふる大晦日の山頂で蒸留酒をあおりながらずっと半裸で過ごしていた事を思い出し、そういう事だったのかと納得した。
これから総勢6人での夜が更けて行くのだが、俺はなんだか楽しすぎたのか「強い酒はね、最初に飲んだ方が二日酔いになりにくいんですよ。」などとのたまいながら開始間もなくウィスキーに手を出し、その5分後にはテントの中の光がキラキラと輝いてみえるくらいには酔っ払っていたのだった。
KZの焼いてくれる肉はどれも旨く、肉の旨さに比例して酒量も青天井で増すばかりであった。

この写真を最後に、このキャンプの記録は途絶えている

妻撮影
差し入れ、そしてクレーム
開始間もなく、近所でテントをはっていた中の誰かだろう、たこ焼きの差し入れを持ってきてくれた。
「やっぱりこういう交流があるのが、キャンプの素晴らしいところだよね」とKSが言ったと思う。
なるほど、これがキャンプか…。良いものだな、人との交流というものは…。
などと感慨に耽りつつ、楽しい時間はあっという間に過ぎ、夜12時過ぎくらいだろうか、なおも騒ぎ続ける俺たちのテントにクレームが入った。
曰く、「今何時だと思ってるんだ、いい加減にしろ」という事らしい。
曰く、というのはその時俺はたまたまトイレに行っており席を外していたからだった。
俺は「そんな事を言われてもな、静かに寝たいのだったら家で寝たらいい話しだろう」と皆に憤って見せた。実際、非日常を楽しむ為にこちとらキャンプを張っているのであり、こんな風な文句を言われるのは納得がいかなかった。
そんなこんなでスマホを見ると時計は既に1時半を回っていた。
まあこの辺りが潮時だろうと、俺達一行はそれぞれの想いを胸にテントの中に潜り込んだのだった。
今何時だと思ってるんだ、いい加減にしろ
眼の前が赤い。いつの間にか朝が訪れており、テントの薄い布地は陽光を完全に遮る事ができず、俺のまぶたを射していた。
あっつ・・・あつい・・・。
太陽の光で熱されたテント内の気温は急上昇しており、テントの入り口を少しあけて中に風を通した。
その一連の動作にともなう身じろぎと同時に襲いくる頭痛によって、自分が完全なる二日酔い状態である事を知った。
外からは他のテントの住人達が朝の支度をしている様子を感じる。寝不足の上に二日酔いの自分にはその快活な雰囲気が恨めしい。
ずっと昔の人達もこんな風に、日の出とともに活動しはじめる集落の生活音によって目覚めていたのかな、なんて事を思った。
喉はカラカラで水もない。同時に目覚めた妻にお願いして水を持ってきてもらい、頭痛薬を飲んだ。これで少しはマシになればいいが…。
頭痛薬を飲んだ後はとにかく眠るに限る。一眠りすればだいぶ頭痛が改善した経験は多かった。何しろこの最悪の気分を早く治さないととんでもない事になるぞ。と思いながら目をつむったその瞬間
「ヒャッハー!キックオフだァァ!」
の掛け声とともにテントの周りでボールを蹴りながら走り回る子どもたち。
(お前らー!今何時だと思ってるんだ!いい加減にしろー!)と息も絶え絶えのオッサンは心の中で叫びました。
やはり人間同士が集う所に、マナーは必要なのであった。
無事死亡
結局眠る事の出来なかった俺はテントから這い出て、メインテントの椅子に座り、その後14時くらいまで過ごしました。
その間もTとKZはコーヒーをミルして淹れてくれたり、太いソーセージを焼いてくれたりしてとても美味しかったのだが、いや、普段なら間違いなく好物の部類のものばかりだったはずだが、俺の胃腸はもはや平時の感動を味わえないレベルにまで衰弱しており、二日酔いの軽減だけを祈って、それらをわずかに口に含むばかりであった。
ちなみに頭痛薬(ロキソニン)は全くと言っていいほど効果をあらわさなかった。いつも二日酔いのときにはイブを飲むとちょっとは楽になるのに…。
KZがいうには「人によってはロキソニン効かない人いますもんね、おれイブしか効かないっすもん」ということで、俺も彼と同じくロキソニンの効かない人なのかもしれなかった。
妻からは「顔色がグロいね。」と言われ、KZからは「ウォーキング・デッドみたいっすねw」と言われた。
いよいよ帰る段になってテントを畳む間も、俺は離れた木陰で皆が作業をしているのを寝転がってただ見ている事しかできなかった。
虫の視点で見る新緑に萌えた草原に咲く小さな黄色い花々と、高く晴れ渡った空に遠くの方で混じり合う海。
ここ1年で最ものどかな昼下がりに、ここ1年で最悪の二日酔いによる体調不良と皆に貢献できない心苦しさがミックスされた世界に、なぜか圧倒的なリアリティを感じながら俺のキャンプ体験は幕を閉じた。
俺はどうも、外泊になると酒量が増えてしまう悪癖があるらしい。以前もこんなことがあった。
これからGWの後半が始まるわけでありますが、みなさんにおかれましても浮かれすぎにはご注意ください。
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