日記

悲しみにむせび泣き!かじりついたあのベッドの香り

「生きるとは苦しみである」

こう語ったのはお釈迦さまであるが、お釈迦さまがどうやらその様な事を言ったらしいと妻に伝えると「暗い所にばかり目を向けてんじゃないよ」と怒られてしまった。

「俺が言ったわけじゃないのに!」という抗議の気を込めて狭い車内で体を小刻みに揺すらせた。こんな時、妻はますます不機嫌になる。

雨の夜、フロントガラスがいやらしく曇る。

「生きるとは」とか言いだすと重いが、人生のつらみを初めて経験したのは、俺がまだフレッシュそのものだった幼稚園の年長さんくらいの頃。

その日はとても寒く、記憶にあるかぎり人生で初めて景色一面にふかふかと雪が積もった日の事であった。

南国生まれの私はその光景を見て野猿と化し、そのまま雪と融合せんばかりに戯れていたが、幼稚園に通園する時間がそろそろ迫って来ていた。

「今日は幼稚園を休む」

こんな特別な日はそうない、幼稚園も決してつまらなくはないが、今はこの雪に全力でぶつかっていたい旨を母に告げた。

しかし母は冷酷にも(その時はそう思った)幼年の私の申し出を却下したのだった。

ひどい!こうなれば持久戦だ、ぐずり続けてかならずや要求を通してやる、と思った。

我が全身全霊をかけたぐずりをとくと御覧じあれとばかりにぐずった。

そんな俺の魂胆を見すかした母は狸寝入りをするばかりであった。

餌も与えられずに放置された私はとうとうつかれ果て、これはもう幼稚園に行くしかあるまいという諦めが芽生えはじめたので泣きながら家をとび出した。

当時の自宅から幼稚園に通うまでの道にはコンクリートで出来た大きな坂道を登らねばならず、雪が積もったその日、坂はまるで白い壁のように眼前にそびえていた。

俺はもう自暴自棄になって一気にその坂を駆け上がろうとしたが、坂の中腹で思いっきり転びヒザを強打。痛みのあまり丸まったと同時に坂の下まで転がり落ちたのである。

これが私の記憶にある、人生にうちひしがれた最初の出来事だった。


◆ ◆ ◆

なんだか切ない気持ちになってきたので反対にうれしかった事を思い出すとしよう。

あれは小学校に入る前だったかと思う、初めて自転車に乗れた日のこと。

補助輪を使って乗るところからはじめ、すこしずつ自転車のサドルに尻を乗せるのにも慣れていたころ、補助輪を外してみようと父に提案された俺は、しぶしぶそれを飲んだ。

正直なところ、補助輪があれば自転車には乗れていたので、わざわざ補助輪をはずす必要は感じていなかったのであった。

それからというもの、しばらくは父親が自転車の後輪部分を支えてくれている状態で、補助輪なしの自転車をたしなんでいたのだが、ある時やたらと自転車がフラついた。

「父上、しかとお支え下さいませ」

ヨタヨタと後ろをふりむくと、もう誰も支えちゃいなかった。

生まれてはじめて2輪の乗り物に乗れた瞬間、あの時の世界の輝きは30年の時を超えても、まだ胸の中に暖かい。

色々とものを与えてもらった記憶もあって、そのどれもが嬉しかったけれど、やはり与えられたものよりも自分でつかみ取ることへの感動というものが勝ったりするものなのか。

ものを与えてもらったといえば、二段ベッドを買ってもらったのがとても嬉しかった記憶がある。

当時の私が「このベッドを使うことで床面積を節約できる!」と思ったかどうかは不明であるが、木材で出来たそのベッドは傷をつけると木独特のいい匂いがするので大好きだった。

悲しい時、悔しい時、寂しい時、涙を流しながら二段ベッドに噛み付き、その匂いに癒やされたものだった。

最終的に歯型だらけになったそのベッドは、兄弟が別々の部屋を与えられた時、その役目を終えた。

今でも時折、あの匂いが鼻をかすめる気がするのである。

 

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