水筒が欲しい。
車でどこかへ出かける度にコンビニの100円コーヒーを買っている事実を、いいかげんにどうにかしたいと思った。
コンビニのコーヒーはとてもうまいし、なおかつ100円というお気軽さにも好感が持てるが、コーヒーを飲みたくなる度にわざわざコンビニに寄るのがおっくうになってきた。
そのうえコンビニコーヒーを飲み終わったあとに出る、紙コップのゴミも、溜まってくると私を陰鬱な気持ちにさせる…。
そんな訳で伊万里にあるMr.Maxに水筒の物色をしに来たのだった。
時は既に20時45分。
Mr.Maxは21時に閉まってしまう。時間との戦いだった。
「長く使うものだから、良い物を買おうね」
水筒コーナーの目立つところに出された、客寄せ用の激安水筒の品定めをはじめたおれを見て妻が言った。
たしかに、毎日だって使うかもしれないものだからこそ、信用の置けるものを選ぶべきなのだ。
あやうく安物買いの銭失いのパターンにはまりかけた己を恥じた。
気を取り直して水筒コーナーの奥にすすむと、サーモスや象印、タイガーというこの筋のトップブランド達が誇らしげに並べてある一角にたどり着く。
サーモスの狂信者である妻は、迷わずサーモスのメタリックな、黒に近い濃い紫色をした水筒を手にとって「これに決めた」と言った。
(出遅れた・・・!!)
それは私から見てもすばらしく魅力的な水筒であり、同型の別の色の水筒を手にとってみるも、残念ながらおれ好みとは言いがたいものばかり。
おれが激安の水筒にうつつを抜かしている間に、妻に先手を打たれるかたちとなってしまった。
激しく嫉妬したおれはいっそ全く同じ色の水筒をかってやろうかとも思ったが、なにかと混乱の元になるのは火を見るよりも明らかだったので諦めるほかなかった。
普段からサーモスの素晴らしさを妻から聞かされ続けていたおれもまた、いつしかサーモスに関して並ならぬ期待と感情(恋心?)を抱いていたことを、この時に知った。
象はやさしい
嘆いていても仕方ないので、傷心のままとなりの象印の水筒コーナーを見やると、なんと想像以上に格好良い色、胸をときめかす形をしている。やはり視野は広く持つべきである。
なにがTHERMOSか。
横文字のハイカラさに一時は目をくらまされたが、これまで日本人の喉の渇きを癒やし続けてきたのは誰だったか、おれは大切なことを忘れていた。
やはり日本人にもっとも親しみやすいのは象印だ、いやタイガーも捨てがたい。
閉店までのこり3分間の厳正なる審査の結果、ついに私は象印の水筒を買うことに決めた。
なぜ私がこの水筒を選んだのか、すこし説明したいと思う。
ワンプッシュ水筒はワンプッシュで水筒の口が開いてしまうので、それを防ぐためにロック機構がそなわっている。
そのロック、象印の水筒だと簡単に片手で開け閉めが出来ると感じた。
また熱い飲み物を入れた時に生じる、フタの部分に結露する水滴を、フタを自動的にいったん少しだけ開ける事で落とすという親切心にも驚かされる。
実際にはこれだけでは十分と言えず、指を放すと勢いよく跳ね上がるフタは、容赦なく結露水分を周囲に撒き散らしたりもするが、その気づかいは嬉しいと思う。
こういった工夫はサーモスのものにはなかったのだ。
言うまでもなく保温力は凄まじく、熱湯を注ごうものなら6時間先まで熱すぎて飲めたもんじゃないという具合だ。
牙を抜かれた象と虎
話は変わるが今回気になったのは、象印とタイガーのロゴの印象だ。
どうも押しが弱いのじゃないか。
サーモスのロゴを見ると、じつに押しがつよい。
比べて象印とタイガーはこの様子。
じつにファンシー。
昔のロゴを探ってみると、こういう資料が出てきた。
見ると初期の象印の象にはまっすぐに飛び出た立派な牙が生えている。
それに戦前と戦後では明らかに様子が異なる。戦前の象は、これから起こる大戦を予感してか、内心の穏やかではなさが見て取れる。
しかし戦後は一変して前向きな表情に。
タイガーに関しては戦後になってもしばらく衰えを感じさせない。1960年の目に狂気を宿した虎のロゴは最高にキレていると思うが、皆さんはどう思うだろうか。
しかし日本が豊かになるにつれ、いつしか攻撃性の象徴である牙もそのなりを潜め、象も虎も表情が柔らかくなっていったのだった。
この国を立て直した人々の、日々の茶のぬくもりを守り続けた自負がそうさせたのか。
私はこの穏やか象ロゴの水筒を誇りに思い、これからも大切に使っていきたいと思った。
ここまで書いたあとによくよくサーモスの事を調べてみるとどうやら日本酸素という会社が紆余曲折を経て海外の事業などを吸収合併したものが現在のサーモスである事を知り、勝手に海外の企業だと思っていた自分の浅はかさに身悶えしているところです。
今回は象印の水筒に軍配を上げる形になったが、これからもサーモス狂信者の夫として、サーモスの事は応援して行こうと思う。
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