日記

十五夜、十六夜、月と星

秋は少しずつ深まりゆく。

まだ日中は暑いことの方が多いが、朝と夜は肌寒く感じることが増えた。

このごろは十五夜というものだったらしい。

十五夜という言葉を見ると、十六夜のことを思う。

十五夜の「じゅうごや」というストレートな読みに対し、十六夜は「いざよい」と読ませるトリッキーさは玄人好みのするものだ。

初見を確実に殺しにくる、日本語の持つこの手のスタイルは嫌いではない。

こういった理不尽な例外を把握するもの同士が、秘密を共有するような仲間意識で繋がり、それがやがて文化を醸成していくのだろうと思う。

よその国の人に十六夜の文字を見せて、「いざよい」と答えるならば、その人はもう日本人であると言っても差し支えはないのだ。

夜、窓外の月が私を誘うので、娘を抱いて外に出た。

光る月を指差し、娘に「つ、き」と語りかける。

近頃は指差すという行為とその意味を学習した娘が私の指先を目で追った。

そしてすぐに興味なさげに目線を外す。彼女は地面を見るのを好む。

散歩の道すがら、娘に月や星のことを話した。

夜空に浮かぶ目に見える星々は、それら一つ一つが太陽のような恒星で、それぞれが惑星を持っており、その惑星たちは衛星を持っていること。

私達の住む家は、太陽の三番目の惑星である地球の中にあって、地球には衛星が一つあって、それが月であること。

それらの星々は無限に広がる宇宙の中にポカーンとただ浮かんでいること。

ポカーンと浮かんでいる巨大な球の表面に、構造物を作りその中で身を寄せ合って暮らす私達。

話をしながら、蟻のような菌のようなものと自分たちが重なってしまい、なんだか笑えてきてしまった。

この荒唐無稽で意味不明が、どうやら私達の住んでいる世界の形だ。

他の色々なことと同様、それはもうそういうものとして受け入れる他ない。

9ヶ月児には未だ理解できようはずもないこの話。

いつか父と一緒に笑い飛ばしてくれ。

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