人生には時に、わずかのきっかけでその後の人生が変わってしまうような出来事が起こる。
昨晩は富安秀行さんという方のライブを見に、佐世保市、日野町にあるカフェバー「へおん」に行ってきました。
アコースティックギターを使った弾き語りといえば、どこにでもある普通のものに聞こえてしまうかもしれないけれども、そのクオリティたるや音楽の真髄を見せていただいた心地だった。
富安さんの奏でるギターの響きは、優しくて、近くて遠い。
その歌声は、深くて広かった。
ハープ(ハーモニカ)奏者のメグミさんのハープも、時にセンセーショナルに、時にギターと歌声を支えるように鳴り響いていた。
年間180本のライブをこなす
富安さんの左手、弦を抑える指の先は、蝋でできているように固く、弦を押さえ、受け止める形の凹みが出来ていた。
人間の体ってすごい。
年間180本のライブをこなすとおっしゃった富安さん、毎日がライブかリハーサルという事になる。
その濃い時間を、彼の指先は言葉を要せずに語っていた。
料理と音楽は、似ている
富安さんは御年60歳、しかし僕の中の60歳のイメージとは、大きくかけ離れた若々しさを持つ方だった。
「音楽と料理は似ている。一つの料理も鰹だしか昆布だしかで変わるようなものだ。」
自身も45歳の頃まで料理屋をされており、そこから一年発起、シンガーとしての道を歩み始められたという。
「一回リセットしなくちゃいけなかった。今までの生活を引きずっていては出来なかった。」と。
富安さんのライブが終わったあとに、僕のギターを富安さんに聞いてもらうという光栄にあずかる事になったのだが、僕は、口では大丈夫と言いながらも、実はずっとテンパっていた。
結果、僕のギターのお披露目はずいぶん雑なものになってしまったと思う。
プロはレシピ本を見ながら料理をしない
その日、一緒にライブに来ていた女性が「私はBeginの『恋しくて』が歌いたい!」とおっしゃった。
僕はコード譜面があれば弾けるだろうと、スマホで音を探している間に、富安さんがギターを弾き始めた。
やや音を探りながら弾く、その感じが、富安さんが普段「恋しくて」を特別練習している曲で無いことを物語っていた。
しかし曲調は徐々に安定していき、最後には実にスムーズに曲は終わりを迎えたのだった。
「コード(和音)譜面を見ながら弾くのが普通になってしまうと、コード譜面がないと弾けなくなってしまうよ。みんなでワイワイ弾く分にはもちろん問題ないが、ステージに立とうと思えば、それでは足りない。」
コードを探しながら歌に合わせて、破綻なく弾くという事、それを現実に実践出来ている方に始めて会いました。
「料理人がお客さんの前で、レシピを見ながら料理を作るのは、違うだろう?」
この言葉に、これ以上ない説得力を感じました。
ギターは弾きこむと音が変わる
カフェバー「へおん」にはTakamineという日本製ブランドのアコースティックギターがおいてあり、これが実にバランスの良い音で鳴るので、ぼくがそのギターを賞賛したところ、富安さんが「俺のギターも、いいよ〜。」と、愛用のギターを触らせてもらう事ができた。
富安さんはYairiという、これまた日本製ブランドのギターを弾いていた。
聞けば、富安さんはYairiからサポートを受けており、そのギターは富安さんのモデルだという。
良いギターかどうかと言うのは、弾きだす前にチューニングをする時点で、まずはっきりと分かる。
これは説明しづらいが、音の調整をしている時に、その音があるべき場所に吸いつく様に整っていく感覚がある。
そして次に、6弦を同時に鳴らすと、粒が揃ったまっすぐな音が鳴る。
このギターはまさにそういうギターだった。
「最初は、(指板上で)音を出すのが苦手な場所があったが、ずいぶん馴染んで鳴るようになってきた。」
富安さんは他にもギターを持っているらしいが、ほとんどそのギターのみを10年間、弾き続けているらしかった。
たぶんギターは、弾く人の情熱と心に呼応するものなのだろう。
ずっとこのまま行ってほしい
僕は富安さんのニューアルバム「夢想人」を買わせてもらった。
富安さんの演奏と歌に心を動かされたというのはもちろんの事だけれども、もうひとつの想いを込めての事だった。
45歳で生業を捨て、ギター一本、シンガーとして生きていくという決心はいかほどだっただろうか。
僕のせまい了見の中の常識で言えば、実に無茶な話だとおもう。
多分、犠牲にしたものもたくさんあっただろうと思う。
でも、富安さんはそれをやってのけ、現実にすばらしいアーティストとして僕に感動を与えてくれた。
ぼくはそういう富安さんの生き様について、心からの爽快感を感じた。
運よく生業を持つことができ、日々を暮らす事が出来ている自分にとって、そういう人をプッシュできる事は幸せだ。
僭越ながら、そういう想いでCDを買わせてもらった。
この爽快な物語を次の人に繋いで行きたい。心からそう思った。
ニューアルバム「夢想人」九州ツアー、次は熊本県の山鹿市にいかれるらしい。
富安さんのFacebook上で、今後のツアーの予定を確認する事ができる。
■6/2(木) 山鹿メトロカフェ
■6/4(土) 日田 SUGERSUGER withハープめぐみ
■6/5(日) 天草バッテン withハープめぐみ
■6/7(火) 玉名温泉つかさの湯
■6/10(金) 佐伯味愉喜食堂 with スィングキャラバン
■6/11(土) 野津原町コーヒーハウスTOSO屋 with スィングキャラバン
■6/12(日) 飯田高原風の丘 with スィングキャラバン
■6/15(水) 日向樫葉 with黒田清高
■6/16(木) 高千穂ガレージ with黒田清高
■6/17(金) 日南マーティンズバーwith黒田清高
■6/18(土) 宮崎泰翁寺 with 黒田清高&ハープめぐみ
■6/19(日) 宮崎ビストロパリの朝市
■6/21(火) 志布志ロボット
■6/22(水) 小林フォークバーフラワー
■6/23(木) 人吉インディカ
■6/24(金) 大津ハロー通り
■6/25(土) 大分 ライブスポット ハニービート with スィングキャラバン
音楽は個人の好みによるところが大きいものなので、皆にとっておすすめというわけには行かない。
けれども、その圧倒的な経験によって創りだされる空気は一種、普遍的なものであるように思う。
本日もG線上のきりんにおこしいただきありがとうございます。
たぶん、この日を境に僕のギター、音楽観も変化していくのだと思う。
たとえ狙ったとしても得難いような、ありがたい褒美を受け取ったような、そんな一夜となりました。
それではまた♪
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