むかしむかし、大きな川のほとりにタヌキ村という平和な村がありました。村長さんは賢くて優しい人で、村人みんなのことを大切に思っていました。村人たちは仲良く暮らし、毎日笑顔で過ごしていました。
ある日、川の向こう側に新しい村ができました。その村はキツネ村と呼ばれ、タヌキ村とは木でできた大きな橋でつながっていました。この橋は両方の村の人たちが行き来するのに使われていました。
はじめは、お互いに挨拶を交わし、プレゼントを贈り合うなど、とても仲良く付き合っていました。キツネ村の人たちは橋を渡って魚を釣りに行ったり、タヌキ村の人たちは橋を渡って買い物に行くなど、にぎやかな毎日でした。
でも、時が経つにつれて、少しずつ問題が起こり始めました。タヌキ村の人が橋を渡ってキツネ村に行くと、意地悪をされたり、ケガをさせられたりすることがありました。村長さんは心配になって、キツネ村の村長さんに「こういうことがないようにしてください」とお願いしました。
しかし、問題は続きました。タヌキ村の人たちは、だんだん橋を渡って川の向こう側に行くのが怖くなってきました。「キツネ村の人たちって、本当は悪い人たちなんじゃないかな」と、疑い始める人も出てきました。
ある日、キツネ村の人が橋を渡ってタヌキ村に来たとき、タヌキ村の若者たちがその人を攻撃してしまいました。村長さんは「お互いに攻撃し合ってはダメだ」と言って、若者たちを叱りました。でも、若者たちは「村長さんは私たちの味方じゃない」と思うようになってしまいました。
そんなある日、橋の上で大きなケンカが起こりました。タヌキ村の若者とキツネ村の若者が言い争いになり、押し合いへし合いをしているうちに、タヌキ村の若者が橋から落ちて亡くなってしまいました。
この悲しい出来事に、タヌキ村全体が悲しみと怒りに包まれました。村人たちは「もうキツネ村とは仲良くできない」「やり返さなきゃ」と言い始めました。
村長さんは必死に説得しました。「戦争になったら、もっとたくさんの人が亡くなってしまう。みんなが悲しい思いをして、村を立て直すのにとても長い時間がかかってしまうんだ」と、涙を流しながら訴えかけました。
でも、亡くなった若者の家族や友達は、村長さんの言葉を聞く気持ちになれませんでした。「村長さんは弱すぎる」「私たちのことを守ってくれない」と言い始めました。
そんな中、村長さんの家族も不安を感じ始めました。ある夜、村長さんの奥さんが言いました。「あなた、最近村の人たちの様子がおかしいわ。私たち家族のことも心配です。このままだと、私たちも危ない目に遭うかもしれません」
子どもたちも怖がって言いました。「お父さん、学校で大変なことが起きているの。友達のお父さんが『村長は弱虫だ』って言ってるって。それを聞いた友達が私たちをいじめるようになったの。『おまえたちのお父さんのせいで、村が危ないんだ』って言われて、こづかれたり、仲間はずれにされたりするんだ。もう学校に行くのが怖いよ」
村長さんは子どもたちの話を聞いて、胸が締め付けられるような思いになりました。自分の立場が家族にまで影響を与えていることに、深い悲しみと申し訳なさを感じたのです。
「みんなを守らなくちゃ。でも、戦争だけは避けたい」と、村長さんの心の中で葛藤が始まりました。
悩んだ末に、村長さんは苦しい決断をしました。橋の入り口に大きな木の門を作り、見張り役の人たちを置くことにしたのです。
「キツネ村の人が来たら、よく確認してから通すように」と村人たちに言いました。「これで家族や村の人たちを守れるかもしれない」と村長さんは思いました。
でも、心の中では「こんなことをして、本当に正しいのだろうか」と迷い続けていました。村長さんは、平和を守りたい気持ちと、家族や村人を守りたい気持ちの間で苦しんでいたのです。
キツネ村の人たちは、突然現れた門に驚きました。キツネ村の村長は「なぜこんな門を作ったのか」とタヌキ村の村長に訴えましたが、タヌキ村の村長は「村人たちを守るためだ」と答えるしかありませんでした。心の中では「ごめんなさい」と思いながら。
ある日、キツネ村の若者たちが大勢で門を壊しにやってきました。タヌキ村の人々は必死で門を守ろうとし、大きなケンカになってしまいました。このケンカで、両方の村でまた人が亡くなってしまいました。
タヌキ村の人々はますます怒りました。「キツネ村の人たちは、私たちの村を襲ってきた。もう許せない」と言う人が増えてきました。
村長さんは最後まで「戦争はダメだ」と言い続けましたが、もう誰も村長さんの言葉を聞こうとしませんでした。
そしてついに、怒った村人たちが村長さんの家を襲い、村長さんとその家族を村から追い出してしまいました。
新しい村長になったのは、ダイナという名の若者でした。ダイナは体が大きくて力が強く、いつも「力こそ正義だ」と言っていました。喧嘩が強くて、問題があるとすぐに殴り合いで解決しようとする人でした。
ダイナは村長になるとすぐに、大きな声で宣言しました。「俺様が新しい村長だ。弱虫な前の村長とは違う。これからは強い者が正しいんだ。キツネ村なんか、やっつけてやる!」
村人たちの中には、ダイナの言葉に不安を感じる人もいましたが、多くの人々は「強い村長ならきっと私たちを守ってくれる」と期待しました。
ダイナは拳を高く上げて叫びました。「キツネ村と戦争だ!奴らに、タヌキ村の力を見せつけてやろう!」
こうして、悲しい戦争が始まってしまいました。ダイナの命令で、タヌキ村の若者たちは武器を手に取り、キツネ村へ攻め込みました。
戦いはどんどんエスカレートしていきました。橋は焼かれ、畑は荒らされ、家々は壊されていきました。両村の人々は怪我をし、命を落とし、悲しみと怒りの連鎖は止まりませんでした。
かつて平和だった二つの村は、今や焼け野原と化し、笑顔だった人々の顔には涙と憎しみしか残っていませんでした。平和を願っていた前の村長さんの想いは、戦争の炎の中に消えてしまったのです。
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もし私がタヌキ村の人間だったら、その中でもどういう立場だったらどういう態度を取るだろうか、などと書きながら考え悩んでしまいました。
簡単な答えはないかもしれませんが、それでも最後まで、できれば平和を、戦争に至る道だけは避けたいものですね。
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