こころ

気負う必要がないのは、人生がほぼ100%運ゲーだから

夜に電話がなった。

発信元を確認すると母からだった。

この時間に母からの電話というのは珍しい。

電話に出ると嫌な予感は的中して、母は「よく聞いて」と前置きをして祖母が倒れたこと、そして現在の状況を語った。

介護施設で暮らしていた祖母は突然脳内で出血を起こしてしまったらしく、それが原因で意識を失い、すぐに病院に搬送され集中治療室に入ったが、今もなお意識が戻らない状態らしい。

らしい、というのはコロナ禍の影響で親族でさえも祖母に会うことができないからだ。

次の日、母のことが心配になった私は、久しぶりに母を誘って二人で車に乗ってでかけた。

行くあては特になかったが、気づくと海の見える町に向かっていた。

そこは、祖母の父母の墓のある小さな町だった。

私はなぜかこれまで、一度もその墓を訪れたことがなかったが、ついに今日この場所に立っていることはとても自然なことに思えた。

一通り墓の周りの掃除を終えて、墓に向かって手を合わせたとき、すぐに「祖母の苦しみがなるべく少なくありますように」と思いついたが、その気持ちがまるで頭から漏れたかと思うほど、
ほぼ同時に母が「ばあちゃんがなるべく苦しくありませんように」と呟いた。

母もたぶん私と同じように、祖母が苦しい時間が一秒でも短くあってほしいと願ったのだと思う。



苦しみがなるべく少なくありますように

生きること、というのはとても大切なことに違いないが、せいぜい2番目か、ひょっとするともっと優先順位は下のほうだと思う。

人間はただ生きることが目的じゃない。

「苦しみの少ないこと」というのが大前提だと、私は思う。

誤解を恐れつつ言うが、どうしようもなく苦しい命ならばいっそ終わったほうがいい。

とはいえ、「生きる」ということは、生きている限りもう一度カードが引けるということだ。

良くも悪くも次に引く新しいカードで、何かが変わるかも知れない。

どのみちいつか必ずカードを引けなくなる時がくるのならば、目の前に置かれたカードの山をすべて明らかにするのも一興だろうと私は思う。



発明王エジソンの言葉で、「天才とは、1%のひらめきと99%の努力である。」という有名なものがある。

これは「どんな天才も99%の努力が必要だ」と、かのエジソンも言っている努力を推奨した言葉である、と私は習った記憶がある。

しかし、この言葉の真意はそうじゃなく、99%の努力も、1%のひらめきがなければ無意味だという事を語っているのだという話を、なにかの本で見たことがある。

調べると、実際にエジソンは努力礼賛としてではなくこの言葉を語ったという記事を見つけた。

では一体ひらめきとはなんだろうか。

それは、にほかならない。

私が思うに、人生とはほぼ100%の運ゲーだ。

私達はおおむね3億の精子の中から、全く記憶にない3億分の1の競争に勝ち抜いてここに立っている。

すべての母親は、何ら意識的な操作を行うことなく、その胎内でDNAにしたがって赤ちゃんを創り上げる。

交通事故に遭うのは無限の宇宙の時間と空間の中で2つの点と点が、不意に同じX,Y,Z座標を取ってしまうことで起こる。

これらは人の努力というものが、いかに人生に与える影響が小さいかということを物語っている事例だと私は思う。

私がこれから死ぬほどの努力と、それにともなう苦しみを乗り越えたとして、100M走で世界一になれるだろうか。

ハーバード大学を主席で卒業できるだろうか。

言うまでもなく無理だし、たぶんそんなことに挑戦すれば死にたくなるだろう。

すぐに私は心を苛まされ、四六時中暗い顔をして、いかに自分は苦労をしていて、

だからこそ自分勝手と横暴が許されるのだということを言動で示すような、気持ちの悪い生き物になってしまうだろう。

努力の努の漢字の、力の部分を心に変えると怒りという漢字を表すというのも、さもありなんという感じだ。

だから私は、私が好きなこと得意なことをしながら生きるほかないという結論に、もはや疑念を差しはさむ余地がない。

好きなこと、得意なことをやっていれば、多少の余裕も生まれて自分の周りの人や環境に感謝する気持ちも芽生えてこようというものだろう。

そうしたら気楽に笑いながらまた、運にまかせて次のカードを引くことができる。

そして深夜、カードの山が尽きたら「ああ楽しかった」とでも言いながら、うしろ髪を引かれる思いで眠りにつけばいいのだ。



このブログでずっと私が伝えたいと思っていたことも、つきつめれば

「どうか少しでも苦しみがなくなりますように」

ということなのだと、今さらながら気付かせてもらった。

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